『カールじいさんの空飛ぶ家』がすさまじく怖い。死ぬ。

「一番好きなアニメーション・プロダクションは?」
と訊かれたら、ぼかぁ今は亡きハンナ=バーベラを挙げます。
で、「世界一ゴイスなアニメプロ・スタジオは」と問われたら。
PIXARでしょう。だったら、PIXARでしょう。
ジブリでもマッドハウスでもIGでもゴンゾでも京アニでもシャフトでもクラートキーでもワーナーブロスでもソユーズムリトでもソニーでもアードマンでもスタジオぴえろでも虫プロでもスタジオ・ゼロでも、それこそハンナ=バーベラでも本家ディズニーでもなくて、極道ネズミの軍門に降ったPIXARを推すでしょう。今はPIXARでしょう。
何がすごいって、最新作『カールおじさんの空飛ぶ家』がすごい。
なんというか、奇妙、というか、変、というか。
「はいはい。どーせアメリカ社会の哀愁や漠然とした不安感をノスタルジックに表現してるんでしょ。わろすわろす。らせたーらせたー」

で、上映終了直後に出てきた正直な感情が、”こわい“。

これ朝に観たあと、当初の予定では続けて『アバター』か『パブリックエネミー』も味わってみようかと画策してたんですが、あまりのショックですぐ映画館から退出してしまいました。

何が”変”だったんでしょうか? 何の要素が心の三半規管を揺さぶったのだろうでしょうか? パートごとに分けて考えてみるみる。

◇序盤:カールじいさんとエミリーばあさんの思い出
カールじいさんとエミリーばぁさんの出会いから別れまでが、ほぼサイレントで描かれます。
公開の前の宣伝でさんざん「妻を失った老人が旅に出るストーリー」と煽られまくってましたから、この過程の取り扱い如何で、じいさんに対する観客の感情移入具合も大分違ってくるはずです。しかし一方でこの部分だけ膨らませすぎても、肝心の「旅」パートが薄くなってしまいます。このジレンマをどうやって解消し、100分という決しては長くない尺内にバランスよく作品をまとめるのか。鑑賞前からこのポイントに非常な興味を抱いておりました。

はじまりは夫妻の幼少時代。気鋭の冒険家・マンツに憧れるカール少年は、冒険家に憧れる少女・エミリーちゃんと出会います。その日の夜、気の強いエミリーに強引に押される形で、カールくんはマンツが目指したまぼろしの地・「パラダイスフォール」(ラピュタとグランドキャニオンとナイアガラの滝と乱馬1/2の呪泉境を足して七くらいでわったような峻嶺)に「二人で素敵な家を立てる」と約束をかわします。
この時点ではカールくんが一方的に恋慕してるだけで、エミリーちゃんから見ればカールは「趣味をおなじくする同志(いいおともだち)」です。小さな恋のメロディにありがちな構図です。果たしてこれからどんな愛の軌跡が描かれるのか….!

で、
そのシーンから切り替わって、いきなり。
教会ですよ?

結婚式ですよ?

そこ….いや、その前になんかあるだろう。カットインだけでも二人の学生時代を挟んどくとか….告白とか、プロポーズとか…..
そんなん一切なし。
「どうせ物語的にはこうならざるを得ないんだよ。お前ら、言わなくてもわかるだろ? “おはなし”なんだから」とでも言いたげな豪快なカット。あたらしすぎる。で、二人の「愛の軌跡」は主に夫婦生活を通して(“古きよきアメリカ”と一緒に)観客に提示されます。サイレントで。「幸せに言葉で飾る必要がない」ということか。
ここですよね、「結婚前」ではなくて「結婚後」に重きを置くところ。この作品に対するPIXARの姿勢というか、覚悟が垣間見えます。

そしてエミリーとの死別。
そっからすうっと空気が変わって。
「約束」を果たすことなく妻を逝かせてしまった悔恨から、じいさんはぬけがらのようなニンゲンになってしまいます。やがて家に業者がやってきて、ビル建設のための立ち退きを迫られます。そこでじいさんがはじめてマトモなセリフを喋るわけですが、それが愚痴とも罵言ともつかない悪態なんですね。ここもまた象徴的。
演出がとにかくハマりまくってる。こわすぎる。

◇中盤:「旅」のシーン
分けるとしたら二つのパートに分けられると思います。「飛行」チャプターと「徒歩(曳航)」チャプターと。
おそらく、鑑賞前に観客が抱いていたのは「傷心のじいさんの孤独で静かでスピリチュアルな空のたび」….だったんでしょうけど。だったんでしょうけど。

これ、実際には25パーくらいしか当たってません。というのも(物理的に)「孤独」でも、「静か」でも、「スピリチュアル」でも、ないんですね。ともすれば「空のたび」も危ういくらい。出発時についてきたボーイスカウトのがきんちょにはじまって、ダチョウみたいな鳥、犬、とどんどん道連れがついてくる。桃太郎か、お前は。ガキはともかく、犬や鳥なんて一フレームも劇場予告編にはでてこなかったぞ? とりあえず終始”家は”浮いてるので「空飛ぶ家」の看板に一応は偽りないんでしょうけど。
しかも、前触れもなしにわけのわからない、追っ手的な別の犬たちも出てくるし。

んでまぁ、ロードムービー的になって行くにしたがって段々自分の中で納得していったのが「あ、これは『ブラザーベア』なんだな」と。チェイサーはいるけど、明確な悪役は設定されなくて、ただ偏屈な男と無邪気で寂しい家庭背景を持つ男の子(アメリカのアニメ映画ではシングルマザー描写が多い)が困難な旅を通じて友情を築き上げる、そんな『菊次郎の夏』なんだな、と。
『ブラザーベア』はかつて「ディズニー最後の2Dアニメ映画」の冠がつけられた悲劇の作品ですが、来年公開の最新作『プリンセスと魔法のキス(The Princess and the frog)』で2D復帰を果たすにあたり、ディズニーなりに「黒歴史」を克服しようとしてるのかなーほほえましいなーうふふ。
なんて思ってたら甘かった。
ディズニー的絶対悪、登場。

◇終盤:敵役とのアクションバトル。
これが、キツい
wikipediaにも載ってるからネタバレかどうか迷うけれど、悪役はまぁ、老人なわけですね。それもカールよりも確実に十五は年上いってるだろうっていう。
設定によると、カールじいさんは”78歳”らしいですから、計算上ではなんと御年90を超えます。おそらくディズニー映画史上、生身の人間では悪役最高齢でしょう。もちろん、PIXARの常で性格は”狡賢いへたれ”となっております。そして、絶対悪。情状の酌量する余地があると思われるのに、絶対悪的に振舞って絶対悪的な最期を迎える。『Mr.インクレディブル』でも見られた、PIXARの法律です。

この、じいさんvsじいさん で、ですね。
ガチンコバトルやるわけですよ。アクション、やるわけですよ。
こう、敵役がサーベル持ってブンブン振り回すんですよ。刃物の圧倒的暴力の前に逃げるしかないカールじいさん。次第に追い詰められ、悪役が大上段に剣を振り上げた瞬間に、

ボキっ、と、腰が抜ける。

起死回生! チャンス! とカールじいさんも反撃に転じるも

ボキっ、と。
こちらも腰が抜ける。

これ、ね。
キッッッッッッッッツイですよ。
精神的に。
視覚的に。

たぶん、これまでのどの映画作品にもなかったシーンでしょ、これ。
誰も描こうとしなかったモンでしょ。
これやっちゃうの、やっちゃうんだ。へぇ。
すげぇ。
製作者が込めたメッセージそのものがふっとんでしまうくらいの衝撃ですよ。
悪役のキャラクターもすげぇゆがんでおりまして、上述したとおりに絶対的すぎるまで絶対悪なんですよ。その男が歩んできた人生背景から行ってもう少し深く掘り下げたり、あるいは和解があったりしてもいいはずなのに、そういうのも断じて無し。悪役は悪役。PIXAR△。
で、このショックにうちひしがれながら、ラストまで突き進んでいくのです。

◇まとめて
そんでまー観終わったあと、序盤・中盤・終盤の三つを頭の中で連結させてみるわけですよ。これが、うまく繋がらない。いや、繋がるだけなら繋がりはするんですよ。でも、なんか、出来上がる完成形が、作品を一つの総体としてみた場合の像が、とてもいびつなものになってしまう。なんていえばいいんだろう。論理的整合性でいえば、チャプターひとつひとつはとてもマトモに見えるわけですよ。とりあえず、全チャプターをつなげてまとめることも出来る。出来るんだけど、何、コレっていう。
意味は通る。筋も通る。通るハズなんだけど、正体不明の不安感が止まらないといいますか。歪んだ鏡をボーッと眺めてるような、そんな不安定さを感じます。いつものPIXARじゃない。

悪役の描き方が納得いかなかったのだろうか? そうかもしれません。

予告編詐欺が気に食わなかった? それもあるかもしれません。

珍しく流血シーンがあったから? あるかもしれない。

いや、本当にそんな瑣末なことが問題なのだろうか。もっと何か、見落としてはいないか。

で、出てきた感想が、最初の”こわい”なんですね。
ぼかぁこれまでアニメ映画で”こわい”という感情を抱いたことないのでそれが転じて今「PIXARすげぇ!」モードになっちゃってます。釣りばし症候群?
うーん。

まぁ、こーれーか社会とかシングルマザーとか夢とは何かとか思い出とは何かとかアメリカンドリームとかめりけん社会とかデフォルメされててそこらへんふかいし、単純にストーリーもすげーかんどーてきなので家族向け年末お正月映画としてとてもおすすめです。楽しいです。泣けます。物理演算ガシガシです。動物はフサフサです。感涙です。
平日昼間に一人で見に行って、茫漠とした不安に陥るのは俺だけでいいです。

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